マダガスカルから来た年配夫婦と相席になる
この親切なお兄ちゃん、私がタイ語を話せないことを知って、すぐそばを通り過ぎるウエーターに声をかけ注文を受けるよう指示してくれた。正直、席に座ったもののどうしてよいやらわからなかったので、ひじょうにありがたかった。
飲み物はと聞かれたので、シンハよりも味が軽いとガイドブックに書かれていたクロスターをオーダー。
タイではシンハが一番ポピュラーのようだが、個人的にはクロスターの方がさっぱりとしていてうまいと感じる。どちらかというとバドワイザー系のような味がする。ハイネケンもあるようだが、これは日本でも比較的たやすく手に入るので、遠慮した。
ビールが来て、とりあえず一口飲んでほっとした頃、同席の年配夫婦が話し掛けてきた。二人とも肌の色はフィリピン系で、淡い茶色と言ったところだろうか。
旦那の方は苦虫を噛み潰したような顔をして、タイ舞踊なんか見たくないんだけど女房が言うんでしょうがないからついてきた、という顔をしている。
どちらかというととっつきにくそうだ。奥さんのほうは気さくでにこやかな表情をしていたが、どうやら英語はダメなようで、ニコニコしているだけだ。
ところが話が始まると意外にこの旦那さんが気さくな人であった。英語で「一人旅か」とか「どこから来たか」というような、とりとめのない話を交わしたが、お互いそれほど英語が達者ではないので、残念ながらあまり話が盛り上がらない。
しかしちょっと会話を交わしただけで、なんとなくお互いの親近感は増すものである。今までなんとなく居心地の悪かった相席が、段々と居心地の良いものに変わってきた。
さらに会話の中で驚いた事がある。私はこの夫婦が何人であるか、当初さっぱり見分けられなかったのだが、それもそのはず、自己紹介によると、なんとマダガスカルから来たそうだ。
思わず心の中で「オオ〜!」と叫んでしまった。というのも私のマダガスカルに関するイメージは、未開の土地のそれであり、目の前にいるような文化人がいるとは想像もしていなかったからである。認識違いもはなはだしい。自分の不明を恥じた。
私がマダガスカルで知っていることは、アフリカの東に位置している島国で、シーラカンスが有名だと言うことだけである。
しかしながら、初対面でいくら釣りが好きでも、いきなり「最近シーラカンスは釣れていますか」と聞くのは乱暴だと思い、その疑問をぐっと飲み込んだ。
次の話題を考えているとき、丁度うまい具合に料理が運ばれてきた。内容は写真を見てもらえばわかるように、いくつかのおかずが小皿に盛られていて、その中心に大皿が置かれている。
そのときはその大皿の用途が良く分からず、幸いにも御飯が付いていたので、その御飯と小皿に乗っていたおかずを日本式に食べていた。しかしおかずの類はそれ以上出てこなかったので、結局その皿は使わなかった。
だが後になって考えてみると、その皿に御飯を必要量のせ、その上に好みのおかずをのせて食べるのが正解だったかなと思い至った。つまり好みのおかずを大皿でブレンドして食べると言う方法である。
さて問題は味であるが、正直なところあまりおいしいとは思えなかった。料理が悪いのか、タイ料理が口に合わないのかは判然としない。特にタイ料理特有のちょっと甘ったるい味付けと臭いが気になった。屋台でもよく匂うものと同じである。
料金が料金なので、まあしょうがないのかなと思える部分もあるが、自分にはタイ料理は合わないかも、と疑念がちょっと芽生えた。隣の年配夫婦も全部は食べていなかったので、やはり料理そのものが、という結論も導けそうだ。