有馬温泉で至福の一時を過ごす
近づいてみると、どうも入りにくい。腹巻をしたようなおじさんが入り口付近をウロウロしている。(私の目が悪いだけで腹巻ではなかったかもしれない)どんなに強がっても、こうゆうところで地が出る。なんとなく近づき難い雰囲気を感じ、もう1軒に行ってみることにした。
昼食候補の「サリ・カフェ」近くにある店である。いったんスリウオン通りに出て左折。サリカフェのメニューを横目で見ながら、もう一度左折すると看板が右に見えた。
私は理系なので本来宇宙人やら霊やらのオカルト物は信じてはいけないはずなのだが、どうゆうわけかUFOを見た事があるし、霊の存在を感じた事があるので、人間の勘というものをかなり重視し信じている。その勘が、この店なら大丈夫と言っているのを感じた。
近づいてみると、店からの拒否感というものがまるで感じられない。まさに吸い寄せられるようにドアを開けて入店。先ほどの店とは違い、ほとんど抵抗感がなかった。
料金システムやオーダーの方法、マッサージのやり方等皆目見当がつかないままの入店であった。
入って左側にビジネスホテルのカウンター?と思わせるような受付があり、美女が3人、とろけるような笑顔で応対してくれる。カウンターにはメニュー表が載っていて、これを見て好みのコースを選ぶようになっている。
ちょうど昼食の時間が近づいていたので、全身の1時間コースを選択。するとカウンターの美女が、横手に向かって○○さ〜ん!と声をかける。ここではマッサージをしてくれる人を選ぶことは出来ないようだ。
さてどんな人が現われるか。バンコクに来て、初めて我が肉体をもみほぐす人がどのような人なのか、緊張感を持って廊下の奥を見守ると、現われたのは20代後半の、目が大きく顎の線のしっかりとした、意志の強そうな美女。好みというほどではないが、安心して任せられる雰囲気を醸し出している。
もっともこのようなしっかりした人にがつんがつんマッサージをやられたら、ちょっと辛いなという一抹の不安を感じなかったわけではない。どうやら美女の方も初対面のおじさんに緊張しているようである。
美女に案内され2階に上がると廊下に沿っていくつかの布団のようなものが置かれ、間がカーテンで仕切れるようになっている。その中の一つに案内され、着替えを渡され、身振り手振りでこれに着替えるよう指示された。
美女はカーテンを閉めて一旦退出。その間に素早く着替える。仕切られた空間の広さは2畳ぐらいだろうか。カーテン越しの隣ですでにマッサージが行われているらしく、男性の「うっ!」というような、心地良さそうな声がもれ聞こえてくる。
再び美女が戻り、先ずは足のマッサージからである。もうこうなるとあとは野となれ山となれの心境で、任せるしかない。貧相な肉体を美女にさらけ出すしかない。まな板の上の鯉である。
顔がしっかりとしていたのでマッサージもぎちぎちにやるのかと思って当初は緊張していたが、これが実にソフトなマッサージで、少しずつ少しずつコリをほぐしていこうという意志が明確に伺える。
体への扱いも丁寧で、うつ伏せになって欲しい等の指示も、実に穏やかだ。足先、足首、足全体さらに手の指、手、肩と進み、うつぶせになって背中や肩、首をもまれ、陶然としてくる。
気が付いてみれば、あっという間の1時間であった。終わったあと、小声で「finish」と伝えてくれたので、私にも終わりがわかった。いやはやなんとも気持ちが良い。美女はいつのまに用意したのか、さりげなくお茶を差し出し出て行った。
残された私はどうしたらよいのかよく分からなかったが、とりあえずお茶を飲み、終わったのだから着替えればいいのだろうと判断して着替え。カーテンを開けるとちゃんとすぐそばに待っていてくれたので、チップを100バーツ渡した。うれしそうな笑顔が印象に残った。
それにしてもどこの誰とも分からない妙な中年おじさんを相手に、いきなり体の接触を伴うマッサージを施すのは大変な仕事だと感じた。
しかもあれだけの肉体労働が必要なわけで、それに対する報酬が客の支払いから考えると1時間280バーツであるから、約750円。今回チップを含めて1100円ぐらい。
バンコクの物価が安いからの成り立っているのだろうが、改めて過酷な仕事だなあと感じた次第である。
(ちなみにこの経験を通して、昨年のマッサージ体験が、いかに危なっかしいものであったのかが良く分かった)