1階で飲んだり2階で飲んだり

 私が落ち着いたと見るや、先ほどのウエイトレスさんが現れ、「私にも奢れ」と言います。奢る代金は日本円で300円ぐらいですから冷静に考えればそれほどたいしたことはないのですが、それでも数名に何杯も飲まれれば結構な額になります。

 しかもこの奢りというのは、何かをしてもらったときの代償としての奢りという側面もあると解釈しているので、ウエイトレスさんが本来の仕事をしているだけでは奢る対象にはならないと判断し、とりあえず今回はきっちりと「NO」と言いました。

 しかし、さすがに若い。すぐにふくれっ面になるのがよく分かりました。「なるほどな、こんな反応をするのか」と内心思いつつ、「ちょっと悪いことをしたかな」という気持ちもあります。

 そうこうするうち今度は隣の女の子が、次は私が踊る番だからと言って席を立とうとしますが、その際、今日は2階で踊るので、上のフロアに私も来いと言います。

 なんだか押しかけ女房の尻に敷かれたお父さんのような心境にもなりますが、素直にドリンクを持って階段を上ります。

 2階にも飲み物のカウンターがあり、やはり中央にステージがあります。ここに座れと言われた場所がステージの真ん前。理由は他に客が誰もいないから。ところがステージ上では5人ぐらいの女の子が踊っています。

 このシチュエーションは気恥ずかしい。本来恥ずかしいのは女の子の筈ですが、5人の女の子が目の前で踊っていて、それを見ているおじさんが一人というのは、ちょっと予想していませんでした。

 その中で私を案内してくれた子は、ステージ上からも私に愛嬌を振りまき、手を振ったりして、一人でパフォーマンスを楽しんでいますが、他にも4人の女の子がいるので、シャイなおじさんはそうそう一緒になってはしゃげません。

 まあ案内してくれた女の子にしてみれば、この客は私のもの(金づる?)よ、ということをアピールする意味合いもあったのではないかなと推測しています。

 「いやあ、しかし照れくさいなあ、困ったなあ」と悩んでいると、階段から足音が聞こえ、ようやく二組目のお客さんが現れました。女の子達のダンスにも少し気合いが入るのが感じられました。

 私もとりあえずほっとしたのですが、なんとこのお客さんがタバコを吸い出しました。タバコファンの皆様には申し訳ないのですが、私は喘息持ちでたばこの煙はどうも性に合いません。(若いときは恰好つけて吸っていたこともありますが)

 そこでタバコは駄目というサインを目の前で踊っている女の子に示して、ダンスが終わった時を見計らって、再び1階に戻ることにしました。1階に戻ると、これまた例によって飲み物をねだられ、ついでに?手足を揉んでくれます。

 何だか妙にかいがいしく、ここまでしてくれるのは凄く珍しいことだなと思い、ついつい情が移ってしまいそうになります。それにしても、なんだか気持ち良いなあと思っていると、再びダンスの交代時間です。 

 しかし今度は先ほどと違って、彼女がダンスに行くときは2階なので、私は一人1階に取り残されます。奥さんに逃げられた寂しい初老の男性というシチュエーションです。

 とはいうものの、鬼の居ぬ間になんとかという言葉があるように、それは新たな女の子と友達になる絶好のチャンスでもあります。災い転じて何とかかんとかという言葉もありますね。


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